個人事業主の事業承継手続き

これまで従業員として働いていたお店を継ぐことになったケースについて手続きを軸に検討してみましょう。

1.承継対象事業の必要許認可を確認する

まず初めに、承継対象の事業に必要な許認可について確認しましょう。飲食店であれば、飲食店営業許可書、防火対象物使用開始届、食品衛生責任者、深夜酒類提供飲食店営業開始届出などがこれにあたります。

2.承継対象事業のモデル収益を確認する

モデル収益とは、承継対象事業の売上(トップライン)と費用(ボトムライン)の一般的な比率や営業利益額を確認します。特に類似業態の営業利益額が20%を切っている場合には、これまでのオーナーのやり方を踏襲しているままでは苦しい状況が続くため、費用面に関して改善が必要になる場合があります。

3.自己資金額と金融機関からの借入可能性を確認する

自己資金額とは、現預金の中から生活費を除いて事業・店舗に投資できる金額のことです。日本政策金融公庫では、創業融資で自己資金の10倍を限度としているため、必要な借入額が1000万円であれば最低100万円、3000万円であれば300万円が必要です。なお、過去携帯代金や機種代金の踏み倒し、現在クレジットカードからの借入返済を行っている場合には、清算されなければ新規で融資実行されませんので、思い当たる場合には時期を見直す必要があります。

4.事業承継の意思を確認する

お店のオーナーに事業承継する意思を確認します。口頭ではお互いの意思の固さが確認しにくいため、承継という目的を明記した「守秘義務契約」を新たに締結して承継対象事業・店舗に関する①損益計算書、②貸借対照表、③キャッシュフロー計算書、④事業で必要となる設備の所有者一覧、⑤リース対象設備の契約内容、⑥承継対象になる借入金の返済表と⑦経営者保証、⑧承継事業にかかわる取引契約書、⑨未払い残業代の有無など、について開示を求めましょう。

5.承継対象の事業の状態を確認する

①事業の売上げと費用の比率とキャッシュフロー

②事業に必要な設備の持ち主と簿価、維持費、耐用年数

③取引契約を承継した際のリスク

④実質在庫、未払金、未払い残業

⑤経営者保証を引き継いだ際のリスク

について明らかにします。判断の基準が不明な場合には、従業員承継・のれん分けを得意とする中小企業診断士に相談することをお勧めします。

6.事業の価格を算定する

会計士などの専門家に事業の価値を算定してもらいます。おおよそ3000万円が一つの区切りで、簡易的手法か複雑な手法かが変わります。相続を目的にした事業価値の算定を得意とする専門家は、相続税対策として事業価値を小さく見積もる傾向にあります。一方で、M&Aを得意とする専門家は、事業の将来価値を算定しようと高めに出します。従業員承継を得意とする専門家は、オーナーと従業員んで妥結できる金額に着地させるため、専門家はよく吟味すべきです。

7.購入条件を交渉する

事業価値が決まると、ほぼ購入金額が決まります。これを一括で支払うことは難しいため、支払い方やスケジュールなどについて交渉を行います。平行して、オーナーが主体になっている契約を移管できるのか、契約先に打診して、契約形態について検討を行います。この契約形態によっては、購入金額が下がることがあります。

8.契約・入金・譲渡を実施する

購入金額と購入条件、支払い条件が決まったら、弁護士に譲渡契約書の作成を依頼します。行政書士も契約書を作成することができるのですが、裁判や係争の恐れのあるものは実際に代理人として委任できる弁護士に依頼しなければなりません。契約書が完成したら、合意した日時、口座に入金を行い、同時に設備、権利の譲渡を受けます。

9.開業届けを税務署に届ける

これまで従業員として勤務されていた場合、確定申告は、年末調整で済ましていたはずです。今後は、個人事業主・法人の代表取締役として最初の売上が発生してから2か月以内に開業届けを提出しなければなりません。これを超えてしまうとその年は白色申告として55万円の特別控除を受けられなくなってしまいます。

以上が個人事業主の事業承継手続きの流れです。事業や店舗を承継できると1から立ち上げるより早く安定した段階に立つことができます。こじらせる前にぜひ信頼できる専門家に相談して早く前に進んで下さい。

新時代の経営者のための戦略大全編集部