株式を100%持った社長が突然死。相続放棄された会社を継続させるにはどうするか?①

はじめに

我々はこれまで大地震や台風災害、さらには世界的なパンデミック、ウクライナ侵攻など「起きる可能性のあるリスクは具現化する」という言葉そのままに、まさかという出来事を体験してきました。

これからの人生においても「まさか、そんなことが」を体験することは間違いありません。

今回は、株式を100%持った社長が突然死。相続放棄された会社を継続させるにはどうするか?についてご紹介します。

背景

関東圏にある建築塗装業の株式会社です。従業員は2名。業務委託先として50名を超える職人さんを率いて主に住宅向け屋根・外壁塗装を提供してきました。

社長は、先進的な投資が大好きで、足場を組まずドローンを用いて少人数、スピーディに屋根・外壁の塗装状態のチェックや見積もりを行うなど、地域で最も勢いのある建築塗装業として有名でした。

一方、1日で数十万円の遊興費を使うなど金使いは荒く、会社の現金預金を個人で使い込む。お金を振り込まずに他社の事業に投資するなど、詳細は社長個人にしか分からない資金の融通や借入がある「らしい」ことでも有名でした。

その結果、損益計算書上は損益分岐点ギリギリ。貸借対照表上は資本欠損状態。キャッシュフロー計算書上もマイナス、という状況でした。

社長の急死

健康には自信があった社長でしたが、ある日の朝急死してしまいました。

残された社長の家族は、社長の個人的な借入の金額や返還期日が分からない状態で相続を行うリスクをおそれ、法定期限ギリギリの3か月目に相続放棄を決断しました。

残された従業員と取締役

新型感染症拡大直後から、急に足場を組まずドローンを用いて少人数、スピーディに屋根・外壁の塗装状態のチェックや見積もりを行うサービスの引き合いが増えるようになりました。その結果、運転資金が順調に回転し、会社はこれまでどおり営業を継続していました。

社長の家族から法定期限ギリギリの3か月目に弁護士を通じて、会社の取締役に相続放棄の連絡が入りました。それまでは、相続するかも、しないかも、という不確かな情報しかなかったため、取締役たちは方針が決まってから対応するつもりでした。

従業員承継に向けた取り組み

当社は、会社法に定められた株式会社で、監査役、監査役会がなく、株主総会がすべての決議を行う最もシンプルな形態でした。株式は元社長が100%保持しており、元社長の家族が相続放棄したため、株主総会で代表取締役交代の決議を行うにも株式の持ち主が不明になってしまいました。

そこで、相続放棄によって所有権が宙に浮いてしまった株式の所有権を確認ところから着手することにしました。

税理士・税理士に相談

まず、当社顧問税理士に確認したところ「そのような事例は聞いたことがない」という返事でした。

次に顧問弁護士に確認したところ「相続放棄によって相続人がいなくなってしまう場合、放棄した者や利害関係人は、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることができる」ということでした。

念のため、セカンドオピニオンとして他の会計士と弁護士にも相談した上で、家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることが適切であると確認を取りました。

相続財産管理人の選任を申し立てる申立人は費用の予納を求められるます。この額は、家庭裁判所が事案の内容に応じて決めますが、概ね、100万円程度ということです。

本件においても100万円が請求されることになりました。

相続財産管理人から株式を購入

株式を持つものが事業に全面的な責任を持つべき、という取締役たちの意思により、営業部長であった従業員が100%株式を購入することになりました。

従業員は、現金で100万円を用意することができなかったため、当社取締役の仲介で取引先金融機関(メインバンク)に相談して事業承継枠で据え置き期間なしの5年で借入を行うことになりました。

相続財産管理人は、当社株式の価値について、大きく債務超過、資本欠損している貸借対照表と別添の会計資料を基に相続財産管理人が1円と算出し、約2か月ほどで取引を完了しました。

続く