適切な販売価格はどうやって決定していけばいいのでしょうか?
販売価格決定方式には、3つあります。
市場で通用する価格を知るのは営業である。よって、販売価格は営業の仕事である、という考えに立つ場合、原価仕切価格方式と振替価格方式が採用されます。
1原価仕切価格方式
原価仕切価格方式は、製造原価に営業部門が販売費と利益を載せて販売価格を作る方式です。販売費と利益は営業部門がまとめて計上します。
2振替価格方式
振替価格方式は、原価仕切価格方式を基に販売価格を作りますが、その後、利益について製造部門と販売部門で折半します。
その他の方法としては、工程の回転率を上げると利益が増える可能性がある。よって、原価の低減を利益に変えられる製造の仕事になるという考え方に立つ場合、受注生産販売価格方式が採用されます。
3受注生産販売価格方式
受注生産販売価格方式は、営業が顧客から提示された価格を製造に伝え、それを受けるかどうか両者で協議します。そして必要であれば、営業が顧客と再交渉します。
このようにして決定された価格をもとに得られた売り上げは、製造に帰属します。製造が全体のプロフィットセンターとなるわけです。
この売り上げの中から、製造が営業に口銭を払います。例えば売り上げのX%という具合です。そして、営業は口銭から販売費を引いた残りを、自部門の利益として計上します。
電子部品のような価格競争が激しい市場では、もともと厳しい提示価格を製造がギリギリまでコスト計算をして受けるかどうかを決める、というこの方式が合っているようです。
実際の高収益製造業は、どのような販売価格方式を採用しているのでしょうか?
京セラ=受注生産販売価格方式
京セラは、価格競争が厳しい電子部品業界で創業したため、「お客様が値段を決める」という市場価格を前提として販売価格を決定しています。
営業は顧客と製造をつなぐパイプ役という位置付けになります。顧客と接する営業は、売上をあげるためには後どれくらいコストダウンが必要か、というマーケット情報を製造部門に伝える役割を果たします。
そして営業は、売上額によって評価されます。製造が受け入れられるギリギリの受注機会の獲得に奔走しているのです。
日本電産=受注生産販売価格方式
日本電産も京セラの「お客様が値段を決める」と同じく「市場価格は神の声」という考え方で市場価格を前提として販売価格を決定しています。
特徴としては、事業所制を採用し、工場をプロフィットセンターとして管理していることです。営業がとってきた引き合い案件を受注するかどうかは、京セラと同じく、工場が営業と相談して決めます。
ただし、工場には予算枠というものがあるので、採算に合わないからといって受注拒否を続けていると予算を達成できません。必然的に、コストダウンの努力をして受注を増やそうとします。
営業部門に課せられた目標は、利益ではなく売上高と市場シェアの極大化です。営業は工場の予算枠を増加させる引き合い案件をとってくればくるほど、目標の売上高が上がるので、工場が受注しやすい案件をできるだけ増やそうとします。
村田製作所=振替価格方式
村田製作所では、振替価格方式を採用していますが、そのデメリットをよく理解しています。営業部門が営業粗利だけを注目すると安値販売に流れて収益性が圧迫されます。一方で営業粗利率だけに目を向けると売上高が伸びずに固定費の回収不足が生じてしまうのです。
そこで、営業が製造と直接相談することはないが、常に製造の操業度などまで気を配らざるを得なくなるように、営業に対する販売手数料の算定式に工夫を加えました。
- 工場の限界利益額に貢献した額から配分する部分:売上高を伸ばせばこの部分の手数料が増加するので、市場シェアが維持され工場の操業度が上がる
- 営業粗利額から配分する部分:営業粗利額を伸ばせばこの部分の手数料が増加するので、収益の安定化に貢献する
キーエンス=原価仕切価格方式
キーエンスは生産設備用のセンサーを中心に自動車制御機器、計測機器などを、開発、生産、販売しています。センサーという単価が低く、商品の種類が多いという特徴を持つにも拘らず、ユーザーへの直販を行い、一方で生産はファブレスで行っている企業です。
キーエンスの主要製品は、FA向けセンサーです。生産プロセスの中に組み込まれますが、生産設備全体の中では決して高額ではありません。
しかし、その機能が出来上がる製品の品質を大きく左右するため、投資効果が高いという特徴があります。従って、顧客はセンサーの価格を厳しく問うことは少なく、高利益率を上げることができます。
キーエンスはファブレスなので製造の利益率管理は仕入れ価格を通して行います。利益率も高いので、製造委託先の操業度などの管理は委託先に任せます。
その代わり、営業に力を入れます。キーエンスの営業の業績は粗利額に近い成果額という指標で評価されます。この指標は売上高よりはるかに厳しい指標です。
というのは、価格を20%値引きした場合、売上高指標では同じ予算達成のために値引き前の125%(1÷0.8)の数量を売れば良いだけですが、粗利率が50%とした場合は、利益指標だと167%(1÷0.6)売らなければならなくなります。この結果、キーエンスの営業は値引きに対する抵抗力が強くなります。
また、取り扱い製品が次々に新製品に変わる中で、自分が担当する顧客の潜在ニーズを組み上げないと、自分の顧客にあった製品がなくなり、利益を稼ぐことができません。
このようにして、キーエンスの営業は値引きすることなく売る努力をし、しかも新製品企画に勤しむことになるのです。粗利額での評価がキーエンスのビジネスモデル(値引きせず高価格で売る、競争が激しい製品からは撤退し新製品をどんどん開発する)とぴったり合っているのです。
高収益部品製造業は、自らが選択したビジネスモデルを効果的に支援する管理会計方式を採用していることが分かります。
事業再構築研究所編集部