ニューノーマル時代に突入した今こそ、事業計画を作ろう

 政府は2020年の成長戦略のうち、中小企業向け経済政策目標を企業数の維持から生産性向上へ方針を切り替える。中小企業は新型コロナウイルス禍で経営環境の厳しさが増している中、5年間で5%の生産性向上が求められることになった。

 倒産や失業増加といった成長と対局にある概念が前提となった成長戦略がそもそも成立するのかとの懸念もあるが、政府は中小企業の統廃合を進めることで合理化を図り生産性向上を成し遂げたいという意図がある。

 日本生産性本部によれば、18年の日本の労働生産性は経済協力開発機構(OECD)に加盟する36カ国中21位と低い。企業規模が生産性を左右するというデータもあり、中小企業が多いことが生産性低下の要因の一つと考えられている。

 企業規模が生産性を左右するというデータは、2015年度版中小企業白書にある。

製造業の場合、企業の規模が大きくなるほど生産性は上がっている。

製造業においてはどの階層においても大企業の労働生産性の方が中小企業の労働生産性よりも高くなっている一方で、非製造業においては、大企業の下位三分の一に当たる層については、中小企業よりも低い水準に生産性が分布していることが確認された。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b1_3_2_1.html

一方で、非製造業では様相が異なる。規模以外の要素が生産性に影響を及ぼしているのである。

製造業では約1割の中小企業が大企業平均を上回っているが、非製造業では約3割もの中小企業が大企業平均を上回っていることが分かる。 

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b1_3_2_1.html

 非製造業は製造業以上に範囲が広範であるため、業種別で見てみよう。資本投資が有効である業種は規模が生産性に与える影響が大きいことが分かる。一方、飲食、医療、教育、宿泊、娯楽、小売りなど直接労働費が発生する業種では、ほとんど規模の差がないことが分かる。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/h28/html/b1_3_2_1.html

 なんと、飲食、医療、教育、宿泊、娯楽、小売りといえば、新型コロナ感染拡大により大きく業績を落とした業界である。

 つまり、飲食、医療、教育、宿泊、娯楽、小売りは、1+1が1になる世界である。政策により統廃合されても生産性を上げることはできない。よって、「自助努力」で生産性を向上させていくしか方法がない。

 逆に言えば、規模の経済を働かせなくても、自助努力で生産性を向上させることができるともいえる。

生産性を向上させる2つの考え方

 ここでいう生産性とは売上総利益ベース(営業利益高+人件費+租税公課+不動産・物品賃借料)である。売上総利益は、売上から原価を引いた総利益である。売上総利益を向上させる方法は一つではない。

売上増による売上総利益増の場合

客数増(リピート率、トライアル率)、客単価増(アップセル、クロスセル、ギフト化)、購買頻度増(購入間隔短縮)、稼働増

原価減による売上総利益増の場合

仕入コスト減(小ロット化、材料代替え)、在庫管理コスト減(契約、小型化、機能減)、直接労働費減(労務者変更、一人当労働時間減)

そのほか、銀行手数料、金利、保険料など手段は様々ある。

カルロスゴーンの生産性向上手法

 参考になる事例としてカルロスゴーンの生産性向上手法を見てみよう。

 カルロスゴーンといえば、日産自動車のV字回復の立役者である。彼はそれまでの系列という仕組みを壊すことと人員削減を行うことで日産の原価である仕入れ金額と人件費を大幅に削減した。

 実は、カルロスゴーンの手法にはカラクリがある。

 日産自動車と同様経営不振に陥ったフランス系自動車メーカーがあった。単純に仕入れ先への一律仕入れ金額減と人員削減を行ったところ、暴動が起き、経営責任者が殺害されてしまった。

 カルロスゴーンは、その自動車メーカーに在籍していたのである。フランスと日本では社会情勢が異なるとはいえ、単純に仕入れ金額と人件費を大幅に削減しただけでは、原価を下げても将来の日産の競争力が落ち持続的成長を実現することはできない。

 カルロスゴーンは、将来の日産の競争力を担うプレイヤーに好条件を出したのである。仕入れ先も製造業であるため、規模と開発力を備えない中小企業との取引を一律停止。規模が大きく、開発力がある企業に極端に取引を寄せていった。一社当たりの取引額は倍増。結果として一律仕入れ金額減となっても、売上総利益額は微増する。

 規定を定め例外なく人員削減を行う一方、目標を数字で明確にしボーナスを中心に一人当たり人件費を向上させ、従業員の行動管理とモチベーションの維持を図った。

 ニューノーマル時代に突入した今こそ、事業計画を作ろう

 政府は中小企業に対し、5年間で5%の生産性向上を求めてくる。新型コロナ感染拡大を理由に目を開けて寝るという選択肢もあるが、風は追い風も向かい風も必ずチャンスになる。

先に述べたとおり、単純に仕入れ先への一律仕入れ金額減と人員削減を行うだけでは、暴動が起き、経営責任者が殺害されてしまうのである。経営者が生産性向上を実現するためには、「正しい」事業計画を立てて実行しなければならない。

ニューノーマル時代は、経営者の地金がさらされる時代である。あなたがさび付いた銅でないことを証明するため、今こそ事業計画を作り風に乗るべきである。

編集長